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追悼 高階秀爾先生
高階秀爾先生
高階秀爾先生(遠山記念館評議員)のご冥福をお祈りいたします。
高階秀爾先生が、さる2024年10月17日に、永眠されました。享年92。
高階先生は美術史学を主要な学問とならしめ、世の中に広く認知させるに巨大な貢献をされた美術史家です。先生は東京大学大学院在籍中に長くフランス・パリに留学し(1954-59)、ルネサンス美術の碩学アンドレ・シャステル教授のもとで学び、『世紀末芸術』(1963)や『ピカソ——剽窃の論理』(1964)などの出版により早くから頭角を現しました。高階先生の御経歴は、まず美術館勤務(国立西洋美術館)から始まり、次いで大学教育(東京大学)に携わり、再び美術館界に館長として戻ってくる(国立西洋美術館&大原美術館)という経過を大筋で辿ることになります。その間、日本近代洋画からフランス19世紀近代美術、ルネサンス文化論から20世紀美術にまで及ぶ夥しい数の著作を世に問い、それまで注目されなかった新たな分野に先鞭をつけ、その学問的水準を一気に高めました。黎明期日本における洋画の歴史を語る上で金字塔となった『日本近代美術史論』(1972)や『日本近代の美意識』(1978)、20世紀美術への洞察(『現代美術』1965、同増補版1993)、美術史学の偉大な系譜を辿る『美術館の思索家たち』(1967)などです。留学時代からの専門であるフランス近代美術史に関する数多くの論考が、『西欧芸術の精神』(1979)『想像力と幻想 西欧十九世紀の文学・芸術』(1986)などによって世に問われ、かつ増補・新版により今なお更新されて、西洋美術史の学徒に指針を与え続けています。
先生は、その他にも極めて多くの編著を上梓し、欧州の研究者の書籍翻訳、書評・展覧会評を多く執筆、今年まで新聞紙上(朝日新聞)で展開して、美術批評および美術史の現在に積極的に関わり、啓蒙的教育的な活動を忘れていませんでした。それは、今なお版を重ねている『名画を見る眼』(1969)及び『続 名画を見る眼』(1971)出版に端的に表れているでしょう。以上の書籍に共通するのは、先生の論理的かつ平明にして含蓄に富む文体です。
芸術選奨文部大臣賞、フランス・芸術文芸シュヴァリエ勲章、紫綬褒章、フランス、レジオン・ドヌール シュヴァリエ勲章、日本芸術院賞・恩賜賞、文化功労者、文化勲章など、内外受賞歴多数。
高階先生は、公益財団法人遠山記念館が発足する以前から、遠山記念館の評議員を1985年より約40年間お務め下さり、旧遠山家住宅重要文化財指定記念シンポジウム(2019年4月28日、川越ウェスタ多目的ホール)にも登壇いただきました。今年3月まで車椅子を押す菖子夫人とともに評議員会にご出席下さり、西洋・日本を問わず博覧強記のさまを御披露下さり、私どもを安心・感心させてくださったことはつい昨日のことのようです。
高階秀爾先生は、前理事長で私の父である遠山一行とともに批評誌『季刊芸術』(1967-79)を創刊されました。そのために、私は幼い頃から先生を存じておりました。お宅(落合・軽井沢・ノースカロライナ)にお邪魔して先生の人間性に触れたことにより、私は慶應義塾大学から東京大学の大学院へ移ったのです。先生は私の留学先(フィレンツェ)にまで尋ねて下さり、共著まで出して頂きました(『ルネサンスの名画101』新書館、2011)。決してご恩を忘れることはありません。
合掌。
公益財団法人 遠山記念館理事長 遠山公一